デゲレオタイプとフィラデルフィア
今日は朝からLibrary Company of Philadelphiaでキュレーターの人と打ち合わせをする。
今回初めて会うSarah Wetherwaxという方で2週間ほど前に彼女の方から連絡をしてきてくれた。去年の秋に行ったTintypeのポートレートセッションで同僚のキュレーターの人がスタジオを訪れてくれたのがきっかけである。
打ち合わせの内容としては来年の秋にDaguerreian Societyが フィラデルフィアで会合が予定されていてそれと同時期にLibrary Companyはデゲレオタイプのショーを行おうとしている。Library Companyでは自分のコレクションがある程度あり他の美術館から借りるデゲレオタイプを使ってショーを行いたいということである。そこでお互いに協力をして何か面白い企画イベントができないかということである。
いかにフィラデルフィアのギャラリーや美術館と足取りを揃えて街全体でデゲレオタイプに関連するイベントを行うかということを話す。僕の所ではコンテンポラリーのデゲレオタイプを見せようと考えている。他の場所も巻き込むことによってもう少し写真に接する機会を持ってもらえるので はないかと考える。そんなことをSarahと2時間ぐらい気軽に打ち合わせをする。
ダゲレオタイプと言えば前々からRobert Corneliusという人のことをいろいろ調べている。Corneliusはフィラデルフィアで1840年からほんの2-3年ほどフィラデルフィアでダゲレオタイプのポートレートスタジオを開いていた人である。写真に携わっていた期間は短いのだが彼が残した業績はかなり大きい。
フランスが世界各国にデゲレオのプロセスの詳細についての発表をしたのは1839年の8月である。このニュースは意外に早く世界を巡りフィラデルフィアの新聞にもすぐに 紹介された。そこでフィラデルフィアの造幣局に勤めていたJoseph Saxtonという方が9月には造幣局の建物から見える風景を撮るのに成功している。この写真はアメリカで最も古く現存するデゲレオタイプとしてLibrary Companyの隣にあるHistorical Society of Pennsylvaniaに残されている。
CorneliusはSaxtonからデゲレオタイプのことを教わり自分で研究を始めた。ペン大学の化学教授と一緒にアイオダインを加えることによって露光時間を1分以下に短くすることに成功するのである。そして同じ年の秋に一番最初に撮ったと言われているのがこの写真で自分のことを写したセルフポートレートである。これは今ではアメリカで最も古いポートレートの写真とされている。
当時のフィラデルフィアはデゲレオタイプに対して積極的に技術を取り入れ完成度を高めて行った。1840年の春にはCorneliusのスタジオを始め2-3件のデゲレオタイプスタジオが既にあったらしい。フィラデルフィアの技術の高さを裏付ける話としてデゲレオタイプを広める為にフランスから送られて来たデゲレオの使者は フィラデルフィアの写真家の話を聞いていて立ち寄ることをやめたようだ。
僕が一番興味があるのはどうしてポートレートを撮ったかということである。デゲレオやタルボットなどの写真を見ているとどうしてもStill Lifeの写真が最初にでてくる。もちろん技術的な限界という点から撮られたのであろうがCorneliusは最初から違っていた。どうして最初にカメラを向けたのが人物だったのであろう。
この写真を見る為にDCにあるLibrary of Congressを4年前ほどに訪ねた。この写真の裏には"The first light Picture ever taken. 1839"という刻みがあるらしく僕はどのような文体で書かれているのがとても興味がある。手書きでかかれているのだが彼の書体を見てみたい。これを見ることによってかれにもう一歩近づけるような気がしてならなかった。その時には裏までは見せてと頼む勇気はなかったが今でも想像を巡らしている。
キュレーターのCarol Smithさんが丁寧に彼のセルフポートレートを始めCorneliusのデゲレオタイプを見せてくれた。元々はフィラデルフィアにいたコレクターの手にあったものだったのであるが彼女がなくなった時にLibrary of Congressに寄付されることになった。 こんな写真がフィラデルフィアに残っていてくれたらと思うのが…。
密かに今回の大きな目的として今回の関連のショーでこの写真をフィラデルフィアに持って来きたいということがある。